「ワンカルビ」「きんのぶた」など、“焼肉・しゃぶしゃぶの食べ放題レストラン”を関西エリア中心に展開するワン・ダイニング。 食べ放題でありながら、「2時間のしあわせを」をテーマに顧客価値を徹底して追求。セントラルキッチンを持たず、肉の鮮度にこだわり、一枚一枚店内カット。また、接客サービスを重視し、フルサービスの“テーブルオーダーバイキング”を取り入れるなど、一見「非効率」ともいえる戦略が際立つ。 競争の厳しい成熟した外食産業の中で業績を伸ばし、今回「2013年度日本経営品質賞・大規模部門」を受賞。その理由と背景にあるコンセプトと戦略についてひも解いていく。

1964年生まれ。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。経営学者。専門は競争戦略。著書に『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)、ベストセラーとなった『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)などがある。

1961年生まれ。84年大学を卒業後、三井物産に入社。95年食肉小売業「ダイリキ」に転職。2008年、同社から分割した外食部門である「株式会社ワン・ダイニング」社長に就任。

楠木: ワン・ダイニングさんは、ユニークなストーリー戦略を実践する企業として、私のケーススタディでもたびたび取り上げさせていただいていますが、今回は「経営品質賞受賞」ということで、改めて髙橋社長から受賞ポイントをお伺いしたいと思います。
髙橋: はい。当社の事業についてですが、フルサービスでご提供する焼肉としゃぶしゃぶの食べ放題レストランを関西・九州地区で90店舗展開しております。お腹いっぱいお召し上がりいただくだけではなく、お客様に大切な人と絆を深める「2時間のしあわせ」をお届けすることが店舗コンセプトです。そのためには、現状維持をよしとせず、店舗価値を向上し続けることが必要だと考えております。
そして、その根幹となる経営理念が、「価値ある経営」です。価値とは「必要とされ続けること」であり、その核となるのが「基本の徹底」と「変化への対応」です。当たり前のことを徹底して行う。そして、時代の変化とともに変わりゆくお客様ニーズに的確に対応することで、常にお客様の期待を超え、「満足から感動へつながる店」を目指しております。
今回、経営品質賞の受賞理由は3つありますが、その1つが「基本の徹底による店舗価値の継続的向上」でした。
楠木: つまり、飲食店の基本を徹底して追求してきたことが評価されたと。
髙橋: そうですね。私どもは何も特別なことをしているわけではありません。お客様が飲食店に求められる基本的なことを、愚直なまで徹底し続けてまいりました。店舗価値につながる「商品力」「接客力」「居心地感」、この3つの基本をPDCAサイクルでスパイラルアップさせ、常に進化し続けています。
楠木: 具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか?
高橋: 前身が食肉小売業「ダイリキ」であった当社にとって、他社他店に負けない絶対的な強みは肉の「店内カット」による商品力です。これは肉屋を原点としている当社が受け継ぐべきDNAであり、さらに強化し続けるために、集合研修、技能検定試験・店舗巡回指導など様々な取り組みを実施しています。また接客力については、マニュアルの徹底は基本中の基本なのですが、それだけではお客様の満足、ましてや感動にはつながりません。4700名の従業員が「チームワン・ダイニング」として、思いや価値観、ビジョンを共有し、目指すべき店舗の理想像というベクトルを統一することが大切です。その上で、アルバイトを含む従業員全員が様々な活動に参加することで、ホスピタリティ向上へ取り組んでいます。
さらに、「2時間のしあわせ」には、商品や接客だけでなく、店舗の「居心地感」が非常に大切だと認識しており、店舗のデザインやしつらえにこだわっています。お席は全て半個室で、贅沢な気分を味わっていただけるよう、店内は上質感あふれる内装を施しています。
それらの取り組みにより、外部調査機関による覆面調査では、2009年以降、焼肉、和食それぞれの部門で常に上位スコアをマークしており、年々評価点数がアップしています。
楠木: “おもてなし”に関して基本を徹底してレベルを上げていくには、仕組みづくりはもちろん、現場の社員やアルバイト教育が重要になってきますが、その点はいかがですか。
髙橋: それが2つ目の受賞理由である「第一線のアルバイトの戦力化と成長の場の提供」ですね。
当社の従業員の90%以上、4500名がアルバイトです。店舗の価値を上げていく肝であるアルバイトスタッフの成長意欲を高めるために様々な取り組みを行ってきました。
まず、アルバイトを対象とした4つの研修。目指すべき方向性を理解・共有した上で、店舗のあるべき姿や自身のあるべき姿を描き、スキルアップに取り組みます。店舗では、アルバイト主導で月1度の店舗会議を実施。店舗ビジョンを達成するために、戦略を立て、「チームワン・ダイニング」として何をすべきか。その中で自分は何を遂行すべきかを決めて、実践していきます。会議へのアルバイトの参加率は90%以上を維持しています。
さらに、毎日の業務を通じて気づいたことをメモにして全社で共有化する「気づきメモ」を運用。「こんな工夫でお客様に喜ばれた」「作業がはかどった」など、毎月1万枚ほど上がってくる意見やアイデアを改善に役立てるとともに、表彰制度も実施。アルバイトスタッフの成長や褒める風土の醸成にもつなげています。
楠木:

いまどきの若い人たちに火をつける。まさに“燃える草食集団”ですね(笑)。
自分で考えてより良くしていくのは、仕事の本質。そういった機会を、常時4500名もの若い人たちに提供していることは重要な社会貢献だと思います。それが事業の成果を出す手段として位置づけられていることが素晴らしい。

髙橋: ありがとうございます。
最後3つ目の評価ポイントは、「スピード感を持った改善・革新に向けた取り組み」です。
昨年社員が参画し「中期ビジョン」を策定しました。ビジョン達成に向け、BSC(バランススコアカード)や部門行動計画書を活用し、PDCAをスパイラルアップしながら、スピーディーに課題改善できたことがご評価いただきました。
楠木: 今回の評価を拝見すると、「飲食経営であれば当たり前」のことをやり続けて、高いレベルで達成しているということですね。では、逆に、ワン・ダイニングにはできて、他にはできない理由はなんだろう、ということです。
髙橋: 当社が現在のスタイルになったのは実は2006年からなんです。きっかけは、21世紀に入り、BSE(牛海綿状脳症)問題の発生などがあり、当社も経営危機に直面しました。それを機に、改めて「お客様に満足いただくにはどうすればいいか」「社会から必要とされる店とは何か」を徹底的に議論したんです。そこで出た結論は、「原点回帰」と「新業態開発」でした。
「原点回帰」は、やはり肉屋としての強みを生かすため、当時は外部委託していた肉のカットを、店内で自分たちの手でやろうと。また「新業態」においては、お財布を気にせず美味しい料理をお腹いっぱい楽しんでいただく“食べ放題”、しかもフルサービスを基本として“テーブルオーダーバイキング”にしていこうと決めました。
「2時間のしあわせ」をテーマに、お客様に心から感動いただき、家族や大切な人との“団らん”の場を提供することが私たちの使命。そのためには“商品”“おもてなし”“空間”の観点で、たとえ原料費や人件費、建築費など“コストアップ”や“非効率”になっても、顧客価値を追求してまいりました。
楠木: そこです。まさに「2時間のしあわせ」「団らん」の提供というコンセプトこそ、他とはちがう戦略、つまり“different”を生み出しているんです。
“食べ放題”というシステムは、コンセプトを実現するためのひとつの手段にすぎないんです。コンセプト実現のためにストーリーを描き、様々な取り組みによって、時間をかけて生み出された価値こそ、ワン・ダイニングの真の強さになっている。だから他社が表面上のシステムだけをマネをしたところで、決して同じような結果は出せないのだと思います。
楠木: 最後にひとつ。一般的に厳しいと言われる外食産業で、アルバイトなど普通の人たちがモチベーション高く頑張れるというのは、非常に重要な経営品質であり、また日本独自の文化みたいなものです。このビジネスモデルを海外に発展させていけるのか。個人的には非常に興味がありますね。
髙橋: そうですね、まずは日本の中で「2時間のしあわせ」を通して、社会に「団らん」を広め、人々に幸せを感じていただくことが私どもの使命だと思っております。
そして、これからも当社の事業を通じて、お客様のみならず、従業員やお取引先様、そして地域社会の皆様の幸せにつながるような価値を創造し続けたいと考えております。
お問い合わせ個人情報保護方針